■「小売等役務」に関する商標登録制度の導入
今回の改正により、小売業者・卸売業者などが顧客に対して行う、「商品の陳列・品揃え・接客」といったサービス(第35類)を独立した役務の商標として登録が可能となりました。また従来通り、
個別の「商品の販売(譲渡)」については、「商品商標」として保護されます。
POINT: 小売店等における店舗の看板、従業員の制服、ショッピングカート、レジ袋等への商標の使用は、「小売等役務」に該当すると考えられ、一方、折込チラシ、値札、レシートへの使用は、態様によって、「商品商標」及び「小売等役務」の両方の使用に該当する場合があると考えられます。例えば、メーカー直営店などのように、製造業者が自社製品を自ら販売する場合でも、顧客のためのサービスとなる「商品の品揃え、商品の陳列」等を行っている場合は、「小売等役務」に関する商標登録を受けることにより、従来保護されていなかった看板等への使用も保護を受けることができます。
■保護の対象となる商標
小売等役務に関する商標としては、百貨店、スーパーマーケットといった総合的な小売、靴店・洋服店などの専門小売店のほか、インターネット・ショッピング、カタログ・ショッピング、テレビショッピングといった実際「店舗」を有さない業態の小売業も対象となります。
POINT: 「小売」「卸売」といった包括的な表示は認められません。百貨店やスーパーマーケットなどは「衣料品、飲食料品及び生活用品に係る各種商品を一括して取扱う小売の業務において行われる顧客に対する便益の提供」(総合小売を指す)と表示することになります。また専門店などの場合、「被服の小売の業務に行われる顧客に対する便益の提供」のように具体的に表示する必要があります。総合小売として登録する場合には事業内容のチェックがなされる場合があるので、注意が必要です。
■「小売等役務」の「クロスサーチ」について
小売等役務に商標出願する場合、総合小売の業態(第35類:35K01)以外は、今後継続的に商品商標の分類(類似群コード)とクロスサーチされることになっています。小売等役務に係る商標出願だけでなく、商品商標の出願についてもクロスサーチが実施されることを意味します。
POINT: 例えば、アパレル商品「被服」に使用する商標であれば、従来同じ商標分類で先行商標だけを調査すれば足りましたが、今後は第35類35K02の小売商標(被服の小売に係わる商標)についても、同一・類似の商標があるかなどの調査をする必要が生じてきます。調査費の負担が増大することを視野に入れておく必要があります。
■「特例期間」
施行(2007年4月1日)後3ヶ月間は特例期間となります。この期間中、従来から使用してきた商標の他、未使用の商標も出願が可能です。従来から使用してきた商標が複数出願された場合は、重複して登録が行われますが、ただし「使用証明書」を提出する場合があります。また、「使用証明書」の提出がない場合は、「くじ」により1つの出願人のみ登録をうけることができます。
POINT: 特例期間中の出願の場合、従来から使用されてきた商標と、未使用の商標とでは、従来から使用されてきた商標が優先的に登録されます。その後は、使用の有無は関係無く、出願日を基準として優先順位が判断されます。特例期間中に、出願しておけば登録できたが、期間後なので拒絶されたといったケースが生じる可能性もあるので、注意が必要です。
■継続的使用権について
不正競争の目的なく、従来から小売等のサービスを行っている範囲であれば、「小売等役務」の出願を行わなくとも、妨害されることなく今後も使用することが可能となっています。ただし、従来の小売等のサービス範囲を超えていたり、他社の商標の権利者から侵害の指摘を受けた場合には、継続的使用権を主張できない場合もあると考えられます。
POINT: この継続的使用権に頼ることにはリスクがあるので、
今後の使用方法や展開を視野に入れて検討することが必要と考えられます。
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